木灰を水に溶かした時の上澄液(灰汁)は藍建や染色の媒染剤として使用されています。特に藍建では微生物の生育に適した環境とするため、灰汁のpHを調整する必要があります。私は染色の媒染剤としてはpH11.0、藍建用にpH11.8の灰汁を使用しますが、いったい何gの木灰でpH11.0, pH11.8になるのでしょうか。水1Lに対して、何gの木灰でpH11.8になるのか実験しました。

手順

  1. ボールに常温の水1Lをいれました。水は浄水器でろ過したものを使用しました。水道水は塩素を抜いたほうがpH7に近づくと考えたためです。
  2. 水の入ったボールに木灰10gまでは木灰1gずつ、木灰11gからは木灰2gずつ、追加しました。今回使用した木灰はナラ、クヌギ、カシ等の広葉樹の木灰で、囲炉裏用に販売されていたものです。
  3. 棒で攪拌しました。
  4. pH試験紙でpHを測定しました。pH試験紙は東洋濾紙株式会社のADVANTEC AZY pH10.0~12.0を使用しました。

結果

水1Lに対して、各pHに達するために必要な木灰の重さは以下の通りでした。

pH11.0: 8-9g

pH11.2: 10-14g

pH11.4: 16-20g

pH: 11.6: 22g-26g

pH11.8: 28-32g

pH12: 34g

1Lの水に対して、木灰8g以上でpH11以上、木灰28g-32gでpH11.8となりました。

藍建で利用されるインジゴ還元菌には様々な種類が確認されていますが、pH12を生育限界とするものが多いため、pH12を超えないようにpH11.8のものを使用します。インジゴ還元菌の一種(Alkalibacterium indicireducens sp. 

)はpH9.5-11.5が生育に適しています*。pHが低すぎると雑菌が繁殖する恐れがあるため私は高めに設定しています。また通常の染色用の媒染剤としてはpH11以上のものを使用します。

木灰を攪拌後、翌日から上澄みを灰汁として使用することができますが、2-3日、できれば1週間程、置いた方がより澄んだ灰汁を得られます。

まず藍建用に高いpHの灰汁を取った後、染色の媒染剤用にもう一度水を追加して、灰汁を取り、pHを測り、何度か繰り返して、pH11になるまで使用できます。

<注意> pHは木灰の種類によりますので、お手持ちの木灰で実験してみてください。今回の実験では木灰の沈殿前にpH測定しているため、沈殿後の灰汁のpHと異なる可能性があります。また、木灰を入れた状態で沸騰させると、木灰の成分の溶解度が上がり、pHも上がる可能性があります。温度が高い状態ではpHを測定できないため、今回は常温で測定しました。

*出典(インジゴ還元菌の一種、Alkalibacterium indicireducens sp. nov. について):

Isao Yumoto, Kikue Hirota, et al. Alkalibacterium indicireducens sp. nov., an obligate alkaliphile that reduces indigo dye. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology. 2008, 58, 901–905, 

 p.903

2008年以降の研究で他にも多様な種類のインジゴ還元菌が確認されていて、どんな菌が藍瓶にいるのだろうと夢が広がります。